Morgan Stanleyサステナブル投資研究所(Institute for Sustainable Investing)の最新の「サステナブル・シグナル」調査によれば、日本においてはサステナブル投資の需要が増加する兆候が示されています。日本で行ったアンケートに答えた個人投資家のうち半数超(56%)がサステナブル投資に関心を持ち、更に29%が2024年にサステナブル投資への配分を増やす予定だと回答しています。
日本の個人投資家は、社会や環境へのインパクト(回答者のそれぞれ74%、72%)を進展させることよりも投資収益の最大化(83%)を優先する、とアンケートの結果が示すものの、回答者の多くは、両方を同時に達成できるとも考えています。 サステナビリティと経済的利益は相反する(トレードオフ)と答えたのは、米国とヨーロッパでは65%以上だったのに対して、日本ではわずか42%でした。 さらに、米国やヨーロッパでの調査と同様に、日本の個人投資家の80%以上が、企業は環境や社会問題に取り組むべきだと回答しています。
このような調査結果は、日本籍のサステナブル・ファンドの運用資産残高(AUM)が約45億ドル、国内で投資されているサステナブル・ファンドのAUMが約320億ドルと、日本においてサステナブル・ファンドのAUMが上昇傾向にあることで裏打ちされます。
しかし、個人投資家の80%以上がサステナブル投資に関心を持ち、2023年度のサステナブル・ファンドのAUMが3兆ドルに達したヨーロッパや3,300億ドルの米国に比べると、日本はまだこれからです。
では、日本のサステナブル投資を更に推進し、投資家の需要に応えていくためには、どのような契機があるのでしょうか。
データの品質改善と透明性
日本の個人投資家にとって、サステナブル投資への最大の壁となっているのが、開示データの信頼性と透明性の欠如ですが、この状況には変化の兆しが見え始めています。 金融庁(FSA)は、日本の上場企業を含む有価証券報告書を提出する企業に対し、2023年3月から年次の有価証券報告書でサステナビリティ関連情報を開示するよう義務付けました。 さらに、2024年3月に発行予定の、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)によるサステナビリティ報告基準の草案では、日本の企業にESG情報開示を改善するよう奨励しており、最終版は遅くとも2025年3月までには発行される予定です。 これにより、投資家は市場、業界に関わらず、一貫性があり比較可能なESG関連の開示情報にアクセスしやすくなります。これは、アセット・マネージャーがサステナブル投資戦略を採用するさらなる根拠となるかもしれません。
サステナブル投資商品の増加
14兆ドルにのぼる日本の家計金融資産を貯蓄から投資に振り向ける政府の積極的な資産運用戦略1も、サステナブル投資を後押しすると考えられます。日本の家計は平均して、資産の半分以上を現金・預金2に残しており、米国の13%や欧州の35%に比べて非常に高い割合となっています。 日本政府はそのような現状を変えるべく、家計の資産をより投資商品に配分するよう施策を打っています。その施策の一環として、日本投資信託協会は、ESG投資信託やETFなどの新しいESG投資商品を、新NISA(少額投資非課税制度3)の運用商品リストに含めることを発表しました。
現在の課題は、個人税制優遇措置の対象となっている2,000以上の商品4のうち、ESG関連投資商品は80程度に過ぎないことです。サステナブル投資に興味を持っている日本の個人投資家も商品数の少なさを感じており、44%がポートフォリオに沿った商品の少なさについて言及しています。
今後関連商品を増やそうと検討しているアセット・マネージャーに向けて、本アンケートは、サステナブル投資に関心がある日本の個人投資家の間で最も人気の高かったテーマは“気候変動対策”や“ヘルスケア”、“循環経済(サーキュラーエコノミー)”だと示唆しています。既存のサステナブル・ファンドの分析をしたところ、気候変動関連の商品は既に十分に取り扱われているようですが、ヘルスケア関連のテーマの商品には更なる投資の可能性があるかもしれません。
また、国を挙げてのグリーン・トランスフォーメーション・プラン5では、約1兆ドルの官民投資のコミットメントを前提にしていますが、そのうち80%は民間セクターで賄う前提になっているため、気候変動対策関連の金融商品の需要はますます高まると期待されます。
サステナブル投資についての投資家への情報提供
これまで見てきたように、投資利益を増やすことが日本の個人投資家にとっては最優先事項ではあるものの、多くの投資家が同時に社会および環境へのインパクトを進展させることができると考えています。一方で、本アンケートでは個人投資家が、実際どのようにサステナブル投資を行えばよいのかというガイダンスを求めていることがわかりました。サステナブル投資に関心のある日本の個人投資家のうち半数以上が、サステナブル投資の始め方がわからない(53%)、サステナブルインパクトを評価する術がない(56%)、さらに、3分の1以上がファイナンシャルアドバイスが欠けていると回答しています。
日本のファイナンシャル・アドバイザーとアセット・マネージャーにとっては、サステナブル投資に関する専門知識をアップグレードし、クライアントの教育、またニーズをより深く理解し、投資目的やゴールに合った多様な商品を案内できる絶好の機会といえます。
日本の個人投資家による投資ニーズに合致しうる契機:
- ISSB/SSBJ基準に沿った企業開示によるデータの品質改善
- 政府による施策を通じて戦略による新NISAで14兆ドルにのぼる家計資産を貯蓄から投資へと誘導。また、日本投資信託協会による新NISAでのESG関連商品の増加
- トランジションファイナンスが必要な業界への投資機会を増やすためにも、投資家のニーズに沿ったサステナブル商品開発の増加
- 投資家によりよい情報や教育を提供するための、ファイナンシャル・アドバイザーとアセット・マネージャーのサステナブル投資に関する専門知識の底上げ