• SUSTAINABLE INVESTING
  • 2023年2月1日

企業および投資家が注目すべきサステナブル投資をめぐる5つの潮流

資本、データ、インテグレーション。これらはモルガン・スタンレーが考える、2023年に注目すべきサステナブル投資の潮流トップ5に共通するテーマです。

主なポイント

  • 新たな規制の導入や投資家の関心の進化により、サステナブル投資の環境は変化し続けている。

  • 大規模かつ協業的な取り組みには公的および民間からの資金調達が必要になるため、投資家にとっての投資機会が創出される。

  • 大規模な課題は相互に関連しているため、投資家は分野をまたいだソリューションに着目できる。

  • ステークホルダーは、より質の高いデータや投資インパクトに関する情報、包括的なESG統合を求めている。

通常の状態にない市場環境や現在生じているグローバルな課題を背景に、環境・社会・ガバナンス(ESG)は企業や投資家にとって重要課題であり続けています。この記事では、モルガン・スタンレーのグローバル・サステナビリティ・オフィス、投資銀行および資本市場部門、資産運用部門におけるサステナビリティ分野のリーダーたちが考える、2023年に注目すべきサステナブル投資の潮流トップ5をご紹介します。

 

1. 企業は体系的な持続可能性の向上に資本を必要とする。

様々な分野や地域でビジネスを展開しているモルガン・スタンレーのお客様は、再生可能エネルギーおよびクリーンテクノロジーを活用したソリューションの規模拡大や所有・賃貸可能な住宅および持続可能な交通手段へのアクセス拡充など、より持続可能で回復力のある経済の実現に貢献できる方法をこれまで以上に求めています。この潜在的な世界経済の変革はここ数世代で最大の投資機会の一つであり、2050年までの気候変動目標を達成するには、有形資産に対する投資だけでも年間平均9兆ドル以上が必要とも言われています1

お客様からのご要望に基づき、モルガン・スタンレーでは世界的なエネルギー転換や社会的平等などの重要な持続可能性問題に対する投資を支援していきたいと考えています。チーフ・サステナビリティ・オフィサー兼サステナブル投資研究所のCEOであるジェシカ・アルスフォードは、「2023年も引き続きお客様とともに様々な環境および社会的プロジェクトに取り組みます」と述べています。これらのイニシアチブは、2030年までにサステナビリティソリューションに対して総額1兆ドルの資本を動員するというモルガン・スタンレーの目標にも寄与します。

グリーンボンドやソーシャルボンド、再生可能エネルギー開発のためのプロジェクトファイナンスなどの従来のサステナブル投資の手法は今後も成長を続けるでしょう。一方、グローバルな低炭素経済に向けての歴史的転換において、新たなテクノロジーの導入やビジネスモデルの進化のために、経済全般にわたって従来にはなかったコラボレーションやイノベーションが必要となります。モルガン・スタンレーのグローバル・サステナブル・ファイナンスの責任者であるマシュー・スロビックは、「必要額と調達額との差を埋め、長期にわたる商業的可能性を備えた影響力のあるソリューションを生むことができる革新的な資金調達構造を開発するためには、慈善団体、政府、企業、投資家が一体となって協力する必要がある」と指摘しています。

 

2. 投資家は様々なサステナビリティ問題の共通点に目を向け始めている。

サステナビリティに関する大規模な問題は、多くの場合、相互に関連しています。例えば、世界的なエネルギー転換は人々の生活や仕事に社会的影響を及ぼし、生物多様性の喪失は気候変動に影響を与えます。アルスフォードは、投資家はサステナビリティ課題に関する知識が増えるにつれ、環境問題と社会問題の共通点をターゲットにした実行可能な投資戦略を一層求めるようになっているとの見解を示しています。

例えば、低炭素経済への公正な移行には、その移行によって得られる経済的利益を公平に分配する必要があります。ネットゼロへの移行によって、2030年までにクリーンエネルギー、エネルギー効率化ソリューションおよび低排出テクノロジーに関連する3,000万人分の雇用が創出される可能性があります2。このようなメリットが多くの人々、特にこれまで新たな経済的機会に恵まれてこなかった人々にまで広範囲に行き渡るには、公的および民間の投資が必要となるでしょう。アルスフォードは、「投資家は、より包括的かつ公平な方法による低炭素経済への移行に向けて、どのように資金を投入できるかを知りたがっている」と述べています。これには太陽光パネルの設置、商業用ビルの改築、さらには電気自動車用電池の製造といった仕事に必要な技能訓練への投資も含まれる可能性があります。

アルスフォードは、生物多様性の喪失も、多くの投資家にとって今年の大きな関心事になるという見解を示しており、「2022年末のCOP15(国連生物多様性条約第15回締約国会議)での国際的合意によって、環境や自然保護へのさらなる資金支援が必要であることが明確に示された」と指摘しています。公的および民間セクターのリーダーは、健全な生態系の維持が気候変動問題への取り組みに不可欠であることを理解し始めています。なぜなら、生態系を維持することは炭素排出量の減少や洪水などの異常気象を防ぐことに役立つからです。さらに、世界のGDPの半分以上が自然および生態系サービス(植物授粉や水質確保など)3に依存しており、生態系の危機の増大は各産業にも深刻な影響をもたらしかねないため、生物多様性の維持は経済にとっても必要不可欠なのです。

 

3. 個人投資家は投資のインパクトやパフォーマンスに関するデータの改善を求める。

個人投資家は、財務目標を達成しながらインパクト(影響力)を高められる投資先を判断するために参考となるツールやデータをさらに重視するようになってきました。このような状況から、従来の業績サマリーに加えて、インパクト・レポートの需要が高まっています。モルガン・スタンレー・ウェルス・マネジメントの「Investing with Impact(インパクト投資)」の責任者であるエミリー・トーマスは、「多くの個人投資家がインパクトの開示を求めている」と話します。

トーマスは、強固なガバナンス体制を示し、信頼できるデータを利用して投資のインパクトを効果的に伝えられるファンドマネジャーや企業は、2023年以降も成功すると予測しています。特にミレニアル世代やZ世代の投資家の関心を引くには、透明性の向上が必須といえます。このような投資家は、裕福になるにつれて活発に投資するようになっており、自身の投資のインパクトについての情報を求めます。

インパクト・レポートや透明性へのニーズがより重視されていくにつれ、インパクト指標のより詳細な情報開示や環境・社会に対する企業慣習の改善などを目的に、投資家エンゲージメントが増えるだろうとトーマスは予測しています。しかし、ファンドマネジャーや発行体は引き続き、ESGの要素と収益性がどのように結びつくのかを説明する必要があります。「大半の個人投資家にとって投資資金は長年かけて貯めてきたお金や退職金であるため、投資インパクトの説明は財務パフォーマンスとも関連付けなくてはいけない」とトーマスは指摘しています。ESG要素が業績に対していかに大きな影響を及ぼすかを理解することは、投資家にとって非常に重要です。例えば、より多様でインクルーシブな文化を持つ企業は離職率が低く、最終的にはビジネスにとっても良い結果につながる可能性があります。

 

4. 機関投資家はサステナブル投資を実現するため、急速に変化している市場に対応する。

モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントでグローバルのサステナブル投資責任者を務めるナビンドゥ・カトゥガンポラは、機関投資家はサステナブル投資戦略を進化させることで投資機会を見出し、特定の持続可能性テーマを定め、大規模リスクにも十分に備えたいと考えているとの見解を示しています。また、「変化する顧客の関心や規制体系といったダイナミックな環境への対応が今年の鍵となる」とも指摘しています。さらに、昨今の不安定な公開市場を背景に、機関投資家は非公開資産や直接資産への投資にますます関心を寄せており、これらの保有資産におけるESG統合を推し進めたいと考えている、と述べています。

機関投資家は自身のポートフォリオにおいて、低炭素経済への転換を見据えたポジショニングを行うことにも関心があるかもしれない、と同氏は話しています。米国のインフレーション抑制法(IRA)は、クリーンエネルギーを推進しながら一部では国内のエネルギー生産にも投資しており、この法律によってバッテリー貯蔵、電気自動車の生産、低炭素生産技術、二酸化炭素回収といった低炭素投資のアイデアが魅力的な投資対象となってきています。

最後に、EU、英国、米国、シンガポール、フランス、ドイツといった国や地域では既にサステナブル投資と銘打つスキームに対する取り締まりを強化し、サステナビリティについての認証検査の厳格化、実施要項の明文化、情報開示要請の強化などを行っていることなど、規制環境がさらに複雑化することについて機関投資家は注目しています。カトゥガンポラは、「このような状況において、機関投資家はリスクやインパクトについて最終投資家向けに開示するためにより多くの情報を企業に求めるようになるでしょう」と話しています。

 

5. 企業はトップダウン戦略でESG統合を目指す。

この2年間、企業およびアセット・マネジャーやアセット・オーナーは、専任のサステナビリティ専門家を増員してきました。投資銀行部門、資本市場部門セールス&トレーディング部門を含むモルガン・スタンレーの法人・機関投資家向け証券業務においてサステナブル・ファイナンスの責任者を務めるセリーヌ・スアレスによると、環境や社会問題を優先的により良い手法で投資判断に取り入れようとする彼らの取り組みは、2023年に加速する見込みです。

スアレスは、「企業は持続可能性について単独のチームで対処するのではなく、複数の事業部門にわたる総合的な戦略としてとらえたいと考えている」とし、また、そのためには「企業としての広範な戦略を策定することを目標に、フロントオフィスから財務、IR、人事、広報、オペレーションまでの全てのステークホルダーが団結する必要がある」と指摘しています。

モルガン・スタンレーのお客様は、それぞれのビジネスにおける優先事項に沿った効果的なESG戦略のアドバイスを求めています。その範囲としては、取締役メンバーを多様化することや特定の業界の投資家にとって最も重要なESG指標は何かを特定することなども含まれる場合があります。「当社では、ESG戦略について経験豊富な投資家に説明するためのアドバイスや、サステナビリティ実現に向けてのそれぞれの取り組みに合った資本市場ソリューションなど、お客様の持続可能性への道のりがどの段階であってもサービスを提供することができる」とスアレスは述べています。

 

 

本文は2023年2月1日に発行した「5 Sustainable Investing Trends for Companies and Investors」の翻訳版です。日本語文への翻訳に際してはその解釈や表現に細心の注意を払っておりますが、万一、英文と日本語文との間に解釈や表現の違いが生じた場合は英文が優先します。